賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律
(不当な勧誘等の禁止)
第29条 特定転貸事業者等は、次に掲げる行為をしてはならない。
一 特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し、又はその解除を妨げるため、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者に対し、当該特定賃貸借契約に関する事項であって特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
二 前号に掲げるもののほか、特定賃貸借契約に関する行為であって、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるもの

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(1) 規定の趣旨

サブリース業者又は勧誘者(以下「サブリース業者等」という。)が、誤った情報や不正確な情報による勧誘や強引な勧誘等、相手方の意思決定を歪めるような勧誘や、同様の方法により契約の解除を妨げる行為を行うことにより、オーナーとなろうとする者は、契約について正しい情報が得られず、また、契約について正しい判断ができない環境下に置かれることになり、甚大な損害を被ることになる。

このため、賃貸住宅管理業法においては、
・サブリース業者等が、マスターリース契約の締結の勧誘をするに際し、又はその解除を妨げるため、マスターリース契約の相手方又は相手方となろうとする者(以下「オーナー等」という。)の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
・サブリース業者等によるマスターリース契約に関する行為であって、オーナー等の保護に欠ける行為 について禁止している。

(2)「特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し」について

オーナーとなろうとする者がいまだ契約締結の意思決定をしていないときに、サブリース業者等が、当該者とマスターリース契約を締結することを目的として、又は当該者に契約を締結させる意図の下に働きかけることをいう。当該者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて事実の不告知・不実告知があれば足り、実際に当該者が契約を締結したか否かは問わない。

(3)「解除を妨げるため」について

オーナーのマスターリース契約の解除をする意思を翻させたり、断念させたりするほか、契約の解除の期限を徒過するよう仕向けたり、協力しない等、その実現を阻止する目的又は意図の下に行うことをいう。上記と同様、実際にオーナーが契約解除が妨げられたか否かは問わない。

(4)「特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」について

サブリース業者がオーナーに支払う家賃の額等の賃貸の条件やその変更に関する事項、サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の内容及び実施方法、契約期間に発生する維持保全、長期修繕等の費用負担に関する事項、契約の更新又は解除に関する事項等、当該事項を告げない、又は事実と違うことを告げることで、相手方等の不利益に直結するものが該当する。

(5)「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」について

  • 「故意に事実を告げず」とは、事実を認識しているにもかかわらず、あえてこれを告げない行為をいう。「故意に不実のことを告げる行為」とは、事実でないことを認識していながらあえて事実に反することを告げる行為をいう。違反した場合における本法に基づく指示、命令は故意になされた場合に限る。
  • 「故意に」については、内面の心理状態を示す主観的要件であるが、客観的事実によって推認されることとなるほか、サブリース業者であれば当然に知っていると思われる事項を告げないような場合については、「故意」の存在が推認されることになると考えられる。以下(6)に、客観的に判断して、オーナー等の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて事実の不告知・不実告知に該当すると考えられる場合を例示する。事実の不告知・不実告知にあたるかどうかは、例示されていないものも含め、個別事案ごとに客観的に判断されることに留意する必要がある。

(6) 具体例

故意に事実を告げない行為

  • 将来の家賃減額リスクがあること、契約期間中であってもサブリース業者から契約解除の可能性があることや借地借家法の規定によりオーナーからの解約には正当事由が必要であること、オーナーの維持保全、原状回復、大規模修繕等の費用負担があること等について、あえて伝えず、サブリース事業のメリットのみ伝えるような勧誘行為 ・家賃見直しの協議で合意できなければ契約が終了する条項や、一定期間経過ごとの修繕に応じない場合には契約を更新しない条項がありそれを勧誘時に告げない(サブリース業者側に有利な条項があり、これに応じない場合には一方的に契約を解除される)
  • サブリース契約における新築当初の数ヶ月間の借り上げ賃料の支払い免責期間があることについてオーナーとなろうとする者に説明しない

故意に不実のことを告げる行為

  • 借地借家法により、オーナーに支払われる家賃が減額される場合があるにもかかわらず、断定的に「都心の物件なら需要が下がらないのでサブリース家賃も下がることはない」「当社のサブリース方式なら入居率は確実であり、絶対に家賃保証できる。」「サブリース事業であれば家賃100%保証で、絶対に損はしない」「家賃収入は将来にわたって確実に保証される」といったことを伝える行為
  • 原状回復費用をオーナーが負担する場合もあるにもかかわらず、「原状回復費用はサブリース会社が全て負担するので、入退去で大家さんが負担することはない」といったことを伝える行為
  • 大規模な修繕費用はオーナー負担であるにもかかわらず、「維持修繕費用は全て事業者負担である」といったことを伝える行為
  • 近傍同種の家賃よりも明らかに高い家賃設定で、持続的にサブリース事業を行うことができないにもかかわらず、「周辺相場よりも当社は高く借り上げることができる」といったことを伝える行為 ・近傍同種の家賃よりも著しく低い家賃であるにもかかわらず、「周辺相場を考慮すると、当社の借り上げ家賃は高い」といったことを伝える行為

(7)特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の保護に欠けるもの

マスターリース契約を締結若しくは更新させ、又はマスターリース契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、オーナー等を威迫する行為

  • 威迫する行為とは、脅迫とは異なり、相手方に恐怖心を生じさせるまでは要しないが、相手方に不安の念を抱かせる行為が該当する。例えば、相手方に対して、「なぜ会わないのか」、「契約しないと帰さない」などと声を荒げ、面会を強要したり、拘束するなどして相手方を動揺させるような行為が該当する。

マスターリース契約の締結又は更新についてオーナー等に迷惑を覚えさせるような時間に電話又は訪問により勧誘する行為

  • 「迷惑を覚えさせるような時間」については、オーナー等の職業や生活習慣等に応じ、個別に判断されるものであるが、一般的には、オーナー等に承諾を得ている場合を除き、特段の理由が無く、午後9時から午前8時までの時間帯に電話勧誘又は訪問勧誘を行うことは、「迷惑を覚えさせるような時間」の勧誘に該当する。
  • 電話勧誘又は訪問勧誘を禁止しているものであることから、例えば、オーナー等が事務所に訪問した場合など、これら以外の勧誘を「迷惑を覚えさせるような時間」に行ったとしても本規定の禁止行為の対象とはならない。

マスターリース契約の締結又は更新について深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法によりオーナー等を困惑させる行為

  • 「オーナー等を困惑させる行為」については、個別の事例ごとに判断がなされるものであるが、深夜勧誘や長時間勧誘のほか、例えば、オーナー等が勤務時間中であることを知りながら執ような勧誘を行ってオーナー等を困惑させることや面会を強要してオーナー等を困惑させることなどが該当する。

マスターリース契約の締結又は更新をしない旨の意思(当該契約の締結又は更新の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示したオーナー等に対して執ように勧誘する行為

  • 「契約の締結又は更新をしない旨の意思」は、口頭であるか、書面であるかを問わず、契約の締結又は更新の意思がないことを明示的に示すものが該当する。具体的には、オーナー等が「お断りします」、「必要ありません」、「結構です」、「関心ありません」、「更新しません」など明示的に契約の締結又は更新意思がないことを示した場合が該当するほか、「(当該勧誘行為が)迷惑です」など、勧誘行為そのものを拒否した場合も当然該当することとなる。
  • オーナー等がマスターリース契約を締結しない旨の意思表示を行った場合には、引き続き勧誘を行うことのみならず、その後、改めて勧誘を行うことも「勧誘を継続すること」に該当するので禁止される。同一のサブリース業者の他の担当者による勧誘も同様に禁止される。
  • 電話勧誘又は訪問勧誘などの勧誘方法、自宅又は会社などの勧誘場所の如何にかかわらず、オーナー等が「契約を締結しない旨の意思」を表示した場合には、意思表示後に再度勧誘する行為は禁止され、1度でも再勧誘行為を行えば本規定に違反することとなる。

(8) 建設請負、賃貸住宅やその土地等の売買契約が伴うマスターリース契約の勧誘にあたっての留意点

サブリース業者による借り上げを前提に、賃貸住宅の建設、ワンルームマンションやアパート等の賃貸住宅やその土地等の購入をして賃貸住宅のオーナーとなろうとする場合、建設請負契約や土地等の売買契約を締結した後に、マスターリース契約の判断に影響をおよぼす重要な事項を認識しても、すでにその時点で多額の債務が発生している状況となる。そのため、特に、建設業者や不動産業者が、賃貸住宅の建設や土地等の購入等を勧誘する際にマスターリース契約の勧誘を行う場合には、マスターリース契約のリスクを含めた事実を告知し、勧誘時点でオーナーとなろうとする者がマスターリース契約のリスクを十分に認識できるようにすること。その際、サブリース業者が重要事項説明の際に使用するマスターリース契約を締結する上でのリスク事項を記載した書面(参考:別添重要事項説明書記載例第一面)を交付して説明することが望ましい。

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