賃貸借契約の成立と有効性

契約の成立

Aが土地や建物などを「貸します」という意思表示をして、 Bがそれを「借ります」 という意思表示をしたときに、AB間 の賃貸借契約が成立します。 このように、両者の意思表示 の合致により成立する契約を諾成契約 といいます。そして、賃貸借契約において、 貸す人を「賃貸人」、借りる 人を「賃借人」といいます。

契約は意思表示の合致で成立するため、 契約書は必要あり ません。 しかし、トラブルの防止を図ったり、 第三者に対して 契約内容を説明したりする場合、 契約書は役立ちます。その ためにも、わかりやすい契約書の作成に努める必要があります。

詐欺による契約

詐欺とは相手方をだますことです。 だまされて契約した場 合も、意思表示は合致しているため、契約は成立しています。 しかし、 「成立しているから約束を守れ」というのは、 だまさ れた人がかわいそうです。 そこで、詐欺の被害に遭った人は 意思表示を取り消すことができるようにしました。

第三者が詐欺を行った場合、 相手方がその詐欺について知っ ていたり (悪意) ・ 知ることができた場合 (善意有過失)であ れば、表意者は意思表示の取消しができます。 しかし、 相 手方が詐欺について知らず、 それにつき何の落ち度もない (善 意無過失) 場合、表意者は意思表示の取消しをすることができません。

無効とは最初から何 もないということ。 それに対して消しは、取り消すまで は一応有効で、 取消 しをした瞬間に、 契 約した時にさかの ぼってなかったこと になるということ。

強迫による契約

強迫とは相手方をおどすことです。 おどされて契約した場 合も、意思表示は合致しているため、 契約は成立しています。 しかし、 「成立しているから約束を守れ」 というのは、 おどされた人がかわいそうです。 そこで、 強迫の被害に遭った人は 意思表示を取り消すことができるようにしました。

第三者が強迫を行った場合、 相手方がその強迫について善意であっても悪意であっても取消しをすることができます。

錯誤による契約

錯誤とは、 勘違いのことです。 錯誤による意思表示は、取 消しができます。

錯誤には、
① 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
②表意 者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に 反する錯誤があります。

そして、 錯誤が法律行為の目的およ び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、 取 り消すことができるものとされています。 錯誤が 「法律行為の 目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」であるこ とが要件となります。 簡単に言うと、 その勘違いがなければ、 表意者だけでなく、 一般の人も通常は意思表示をしないであ ろうという事情のことです。

このうち、②は、 動機の錯誤といわれるもので、法律行為 の基礎とした事情について法律行為の基礎とされていること が表示されていたときに限って、 取消しが認められます。

錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、 原則として意思表示の取消しをすることができません。 ただ し、 相手方が表意者に錯誤があることを知り、 または重大な 過失によって知らなかったとき、 および相手方が表意者と同一 の錯誤に陥っていたときには、 取消しをすることができます。

意思無能力者による契約

契約を結ぶためには 「意思能力」 が必要です。 意思能力の ない人(意思無能力者) がした契約は無効となります。 意思 無能力者とは泥酔状態の人や就学前の児童などです。

制限行為能力者による契約

未成年者

未成年者とは18歳未満の者のことです。未成年者が単独で行った行為は取り消すことができます。しかし、未成年者であっても、以下の行為は取消しができません。

  1. 法定代理人(親権者) の同意を得ている場合
  2. 営業の許可を受けている場合
    →その営業に関するものは取消し不可
  3. 処分を許された財産 (小遣い) を処分する場合
  4. 単に権利を得、 または義務を免れる場合

成年被後見人

成年後見人とは、判断力のない者(=精神上の障害によ り事理を弁識する能力を欠く常況にある) で、 家庭裁判所に よる後見開始の審判を受けた者のことです。 後見開始の審判 を請求できるのは、本人・配偶者・4親等内の親族 未成年 後見人未成年後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人, 補助監督人・検察官です。

成年被後見人には成年後見人という法定代理人がつきます。 成年被後見人が単独で行った契約は取り消すことができます。 また、成年後見人の同意を得た行為であっても取消しをすることができます。 ただし、 日用品の購入その他日常生活に 関する行為については、取消しをすることができません。

被保佐人

被保佐人とは、 成年被後見人ほどではないにせよ、 精神上 の障害によって、事理弁識能力が著しく不十分な者で、家庭 裁判所による保佐開始の審判を受けた者のことです。
被保佐人は、ほとんどの行為について単独でできます。 単独でできない行為は以下のものとなります。

  1. 元本を領収し、 又は利用すること。
  2. 借財又は保証をすること。
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をす
    ること。
  4. 訴訟行為をすること。
  5. 贈与、 和解又は仲裁合意をすること。
  6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
  7. 贈与の申込みを拒絶し、 遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
  9. 土地については5年・建物については3年を超える賃貸借をするこ と。
  10. 1~9の各号に掲げる行為を制限行為能力者 (未成年者、成年被後 見人、被保佐人、被補助人) の法定代理人としてすること


保佐人は当然には代理権を有しませんが、 家庭裁判所は、 特 定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をす ることができます。 そして、 家庭裁判所の審判があれば、保佐 人は本人に代わって代理人として行為を行うこともできます。

被補助人

被補助人とは、被保佐人ほどではないにせよ、精神上の障 害によって、事理弁識能力が不十分な者で、家庭裁判所によ る補助開始の審判を受けた者のことです。本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、 本 人の同意がなければなりません。被補助人は、ほぼすべての行為について単独ですることが できます。 そして、 どの行為について補助人の同意を要する かについては、 家庭裁判所の審判によりますので、被補助人 ごとに異なります。補助の審判に際しては、申立てによって、 特定の行為につ いて、 補助人に、同意権や代理権が与えられることになって います。 同意権や代理権が与えられた場合には、補助人がそ の権限を行使します。

公序良俗に反する契約

反社会的な契約などは当然のことながら守る必要はありま せん。そのような契約は最初から無効だとされています。 殺 人契約 愛人契約などがそれに該当します。 さらに、賃料が 不当に高額である場合や、 違約金が不当に高額である場合な ども、公序良俗に反する契約であるとして無効となる場合が あります。

判例において公序良俗違反と認められた行為

賃貸借

①「賃借人が賃借料の支払を7日以上怠ったときは、 賃貸人は、直ちに賃貸物件の施錠をすることができ る」 との特約 (札幌地判平11.12.24)

②「賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人は、賃借人 の承諾を得ずに本件建物内に立ち入り適当な処置を 取ることができる」 との特約 (東京地判平18.5.30〉

③住戸内の同居者を制約する特約についても、賃借 人の結婚や出産などを制約するような場合 (東京地判昭51.9.27)

建築

建築工事が建築基準法による北側斜線制限、 日影規制、 および、 容積率 建蔽率制限に違反するものであった 請負契約 (最判平23.12.16)

土地取引

認知症の影響により判断力等が相当程度低下してい た売主との間で不当に安価でなされた売買 (東京高判平30.3.15)

おすすめの記事